「ギャスパー・ノエ最高傑作だ」映画『VORTEX ヴォルテックス』物語結末までネタバレと海外の感想評価を紹介。私は号泣し晴れやかな気持ちになった本作ですが、フランスのとある老夫婦の「現実」を淡々と冷酷に描いた本作はギャスパー・ノエ監督の最高傑作との呼び声が高い反面、長すぎる、現実を見せないでほしいというリアルすぎる内容に賛否分かれる映画です。
もくじ
映画『VORTEX ヴォルテックス』基本情報:
タイトル: VORTEX ヴォルテックス
ジャンル: ドラマ
上映時間: 2時間22分
監督: ギャスパー・ノエ
主要キャスト: ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルツ
映画のあらすじ:
高齢の夫婦が認知症との日々の闘いを描いた感動的なドラマ。夫婦の絆や家族の愛を中心に、人生の終焉に向かっての日々をリアルに描写しています。
スタッフ:
監督: ギャスパー・ノエ
脚本: ギャスパー・ノエ
キャスト:
ダリオ・アルジェント: ルイ
フランソワーズ・ルブラン: エリー
アレックス・ルツ: ステファン
キリアン・デレ: キキ
タイトルの「VORTEX」の意味とは?
「VORTEX」は英語で「渦」や「渦巻き」を意味する言葉。映画の中で高齢の夫婦が認知症という渦中での闘いを描いていることから、このタイトルが選ばれたと考えられます。
監督のプロフィール:
ギャスパー・ノエはアルゼンチンのブエノスアイレスで生まれ、フランスで映画監督としてのキャリアを築いてきました。彼はアルゼンチンの著名なアーティスト、ルイス・フェリペ・ノエの息子として知られています。彼の監督作品には『I Stand Alone』、『Irréversible』、『Enter the Void』、『Love』、『Climax』、『Carne』、『Lux Æterna』、『Sodomites』、『Vortex』などがあります。特に『Enter the Void』は、彼の作品の中で最も感覚的なスタイルが際立っていると言われています。彼は現在、ルシール・ハジハリロヴィッチと結婚しています。
ギャスパー・ノエ最新作は2023年に配信された○○、この記事の最後に紹介しています。↓
キャストのプロフィール:
ダリオ・アルジェント: イタリアの著名な映画監督・脚本家としても知られる彼は、本作では俳優としての一面を見せています。
フランソワーズ・ルブラン: フランスのベテラン女優。長いキャリアを持ち、多くの作品でその演技力を発揮しています。
ネタバレなし評価:
IMDbでの評価は7.4/10。多くの観客や批評家から高い評価を受けています。特にダリオ・アルジェントとフランソワーズ・ルブランの演技が絶賛されていますが、一部のレビューでは編集やペーシングに関する指摘も見られました。
公開情報:
フランスでの公開日は2022年4月13日。
日本で最近2023年12月に公開決定が発表された。
映画『VORTEX ヴォルテックス』物語ネタバレ
この映画は常にスプリットスクリーンで描かれており画面右は作家で夫のルイ(ダリオ・アルジェント)、画面左は元精神科医のエリー(フランソワーズ・ルブラン)の姿が映し出され、二人が同じ場所にいても画面が統一されることはなく、常に左にエリー、右にルイが別々に映っている。
二人の老いた夫婦は今日もいつものように穏やかに目覚め、それぞれの書斎で過ごした後、エリーは買い物に出かけますが、意味もなくおもちゃ屋を訪れては何も買わず触れずただ眺めています。書斎で執筆活動を続けていたルイはエリーに電話をかけますが、電話が鳴っているのが自分のものとは思えない様子のエリーは気にせずに周囲の品物を眺め歩いています。
電話に出なかったことで不安を覚えたルイはエリーを探しに外に出て、薬局に向かいますが彼女を見つけることができませんでした。しばらく探し回りやっと彼女のいる食品売り場に辿り着き”一緒に家に帰ろう”とエリーの手を握って一緒に帰宅します。
痴呆症の妻エリーと心臓病の夫ルイ
家に着くと、ロイはため息まじりに何をしていたのか?と聞いてもエリーは何もしていないと答え、どこに行っていたのか?と聞いても薬局に行ってたと嘘をつきます。この様子からエリーは認知症を患っており、ルイはそんな妻に振り回されていることに疲れている様子が見えます。
話し合いが終わりそれぞれの書斎に戻り、ルイは執筆活動を続けていますが、エリーは落ち着きがなく歩き回り意味もなく立ったり座ったりして過ごしています。
息子のステファン(アレックス・ルッツ)が孫のキキ(キリアン・デレ)が二人の家を訪ねます。そして、エリーに精神科医なのだから自分のことは冷静に見れるよね?と伝え、一緒に脳外科に行って診察を受けようと、認知症であることを認めようとしないエリーを説得をしていましたが、話の最中にステファンに小声で”早く家に帰りたい”と伝えます。
ルイは悲しそうな表情を浮かべますが、ステファンは優しくここが家だよ、大丈夫だよ、何か他にある?と優しく聞きに徹して母の心配を少しでも和らげようと努力しています。しかし話をしている最中にステファンが誰かが分からなくなるなど認知症が悪化し続けていることが分かります。
息子と孫、エリーとルイの四人でテーブルに座りますが、幼いキキの車遊びの方法が気に入らず怒鳴り始めるルイ、優しく咎めるステファン、それを見て泣き始めるエリー、そこでルイはエリーのために食事を作らず買い物にも行かない仕事一筋の頑固者だということが徐々に明らかになります。無職のステファンはルイに金を借りてキキと一緒に自宅に戻ります。
エンディングネタバレ
ある日、いつものようにそれぞれの書斎で過ごしているとガス臭いことに気がついたルイが台所に向かうと、ガスが開きっぱなしの中、何食わぬ顔で書類を見ていたエリーの姿を見て認知症が悪くなっていることに悲観したルイは頭を抱えます。さらにルイがシャワーを浴びている間に執筆中の書類などをまとめてゴミとしてトイレに流す妻の姿を見て悪夢だと呟きます。
ある夜、ルイの容態が悪化し、地面に倒れて気を失います。朝、ルイがテレビの前で倒れていることに気がつき、静かに何が必要ですか?どうしますか?と甲斐甲斐しく夫の世話をします。ルイはエリーに救急車を呼んでほしいと頼むとエリーはなんとか覚えている息子ステファンに電話をして病院に搬送させます。集中治療室で治療を受けたルイは治療の甲斐なくルイは死んでしまいます。エリーは何が起きているのか、なぜ病院にいるのかも曖昧なまま中空を見つめ続け、父を看取ったステファンがエリーの元に戻ると
”あの人は大丈夫?”
とエリーが尋ねたためステファンは感情を抑えきれずにエリーの膝で泣き出し、息子を膝に乗せたことで何かが蘇ったのか、息子のために子守唄を歌い始めます。
一人でテレビを見続けるエリー、右側の画面はずっと真っ暗のままです。何かを探すかのようにルイの書斎を訪ねたり家中を探し回った後、外に出る準備を始め玄関の外に出たエリーは立ち止まると、
”あなた?”
”あなたどこ?”
と周囲を見渡します。
そして隣人の呼び鈴を鳴らし、隣人は”あなたの主人は亡くなったんだよ”と優しく伝えエリーを家に戻してあげます。家に戻ったエリーは自身の薬を集めると全てトイレに投げ捨てます。横の画面ではステファンが息子キキを寝かしつけた後麻薬を吸引している姿が映し出されます。
夜、エリーはシーツを頭まで被り神への祈りを捧げた後、神に見守られながら亡くなります。後日ステファンは母の葬儀を行い、参加者たちと一緒にエリーの思い出の写真を見ながら葬儀が終わり納骨が行われます。
ルイとエリーの住んでいたかつての人気作家と精神科医が使っていた誰もいない書斎が映し出された後、徐々に荷物が無くなりそして全てが運び出されたもぬけのからのアパートの一室が映し出された後、地面、そして空、カメラは180度回転し地面が上になったタイミングで画面は白くなり物語は終了します。
海外の感想評価
8/10
吸収力があり、打たれ強い
ノエの基準に照らしても、『ヴォルテックス』は実に淡々としていて、恐ろしいほど残酷だ。
楽観主義も感傷もない。この映画は、フィルターを通さず、ただ「年を取るのは恐ろしいことで、こういうことが起こりうる」ということを描いている。
ダリオ・アルジェントのキャラクターも同様に正直である。ダリオ・アルジェント演じる主人公は、妻はどうかと聞かれ、率直に「良くない」と答える。ダリオ・アルジェントが演じる主人公の息子も同じようなことを言う。
2012年の『Amour』と似たような前提を持ちながら、さらにインパクトのある作品に仕上がっている。ここではネタバレしないが、大胆な文体の決定も使われている(私はそれがある種の効果を上げていると思う。いくつかの場面で破壊的な印象を与えるが、シーンごとにその明確な目的を理解することはできなかった)。
楽しい映画でもテンポの良い映画でもないのは確かだが、142分が驚くほどあっという間に過ぎた。ギャスパー・ノエのこれまでの最高傑作かもしれない。
6/10
“心より先に脳が腐ってしまう全ての人へ”
親密で、心を揺さぶり、静かで、悲しく、主人公2人の演技がとても生々しく、素晴らしい。
とてもスローだが、独特のトランジションとスプリットスクリーンの組み合わせにより、目を常にキョロキョロさせられ、全てを理解しようとする。正直なところ、この映画は不快なほど長く、最後のシーンまで完全に頭に入ってこなかった。年を取るのはとても怖いことだ。
7/10
ほぼ最高
ノエのこれまでの作品とは異なり、『ボルテックス』は控えめで、ゆっくりとしたテンポの、親密な人物描写の作品だ。
ダリオ・アルジェントがこれほど見事な演技を見せると誰が知っていただろう?そしてフランソワーズ・ルブラン…本当にすごい。他のキャストの役柄も素晴らしいが、これは2人の人物を描いた映画であり、彼らの配役は完璧だったと思う。しかし、この映画が本当に苦労しているのは、そのテンポと編集である。単純に30~40分長すぎる。シーンが延々と続く。平凡なシーンに催眠術のような効果がある場合もあるが、長引かせるほどではない。もっとタイトな編集にすれば違ったものになっただろう。おそらく近いうちに、この映画を再編集し、全体的にもう少しタイトにしたディレクターズ・カットが出るだろう。しかし、この映画には評価すべき点がたくさんある。演技だけでも見る価値がある。重要なテーマを取り上げ、それを優雅に扱っている。監督が、型にはまることを恐れず、リスクを恐れず、そのほとんどが報われる多才な職人であることを示している。
5/10
残念ながら長すぎる
この映画を本当に好きになりたかった。ギャスパー・ノエの大ファンとして、この映画を見るのを楽しみにしていたが、ギャスパーの最大の欠点に悩まされている: ストーリーがほとんどないのに、上映時間が長い。少なくとも1時間はカットできたはずだ。登場人物はほとんど何もしていないように見える。題材は重要だが、ストーリーの扱い方が「面白くない」と思わせる。葛藤がほとんどなく、出てきても微妙でほとんど存在しない。ギャスパーが非常にスカッとする監督であることに私が目を奪われているのかもしれないが、彼はこの作品で失敗した。
2時間22分という上映時間を正当化するような内容があまりないという事実とは別に、物語が起こる時間帯がちょっと嫌いだ。冒頭から、誰もがすでに物事を解決しているように見え、状況を受け入れ、すべての議論やドラマはすぐに終わってしまう。
私が本当に気に入ったのは、この映画の撮影方法だ。特にラスト、主人公の一端が不在であることがわかる。
9/10
今回は必然性と絶望が混在している。
ヴォルテックス』は、人生の重要な要素、少なくとも2023年という年に私たち人間にとって生命が存在するならば、生まれてくることが確実な要素、その翼の老い、死について描いている。ボルテックス』を見ている間、私は自分の無力さを感じ、避けられないものから逃げることはできない、遅かれ早かれ直面しなければならないのだと思った。しかし、『ボルテックス』は悲観的な映画ではないし、憂鬱な映画でもない。ただ、フランスの小さな家族の中で、人生のサイクルの一部を終わらせることを描いているだけなのだ。
9/10
現代映画の最高峰の一人による全く新しいタイプの傑作
この1週間ほど、この作品について考えていた。信じられないほど特別な映画で、私の知る限り、とても特異な映画だ。これほどリアルな死に焦点を当てた映画は見たことがない。ギャスパー・ノエの特徴である殺伐とした雰囲気はあるものの、彼が作った他の作品とはまったく異なり、より謙虚に感じられる。彼はインタビューで相関関係について言及しているが、彼自身の臨死体験(数年前の脳出血)が、ある意味で彼の心を変化させたことは明らかだと感じる。これはノエの最もハートフルな映画であることは間違いない。
もちろん、この映画は万人向けではない。体験そのものの殺伐さもさることながら、この映画はリアルタイムで進行しているように感じられる。私でさえ、あまりの遅さに耐えられない部分があったが、結局のところ、すべてが素晴らしい意図とビジョンで作られているので、2度目に観ると、そのような緩慢なシーンのいくつかをさらに評価できるかもしれない。80代の老夫婦の人生最後の数カ月を生きているのだ!
こんなに効果的なスプリットスクリーンを映画で見たのは初めてだ。分割された画面のそれぞれで2つの超スローなシークエンスが発生するとき、それが1つの完璧な “普通の “テンポの体験に追加されるという事実に、私はしばしば魅了された。そして、映画が進むにつれて、スプリットスクリーンはますます芸術的な目的を持っているようだ。
主役2人の演技には本当に驚かされる。この20年間、ダリオ・アルジェントの映画世界全体の熱烈なファンである私は、彼の演技を見たことがなく、『ボルテックス』で彼に何を期待したらいいのか見当もつかなかった。彼がこの映画にもたらしたものは、何よりも温かく愛すべきものであり、実際、ここ数年で見た中で最も感動的な演技のひとつであった。もちろんこれは、彼のキャラクターがそのような軽い感情とは正反対のことに集中するとき、高いレベルの効果につながる。このイタリアの殺人映画の巨匠が、カメラの前に置かれたとき、死を中心としたシナリオを最も信じられる描写のひとつができるのは当然のことだ。これによって、アルジェントの遺産はまったく別の次元に到達した。そして、フランソワーズ・ルブランという素晴らしい女優が、この映画全体を作り上げている。映画を見ているという感覚はない。それ以上のことを言葉にするのは難しい。彼女は最高の称賛に値する。
この映画について言いたいことは山ほどあるが、これくらいにしておこう。ギャスパーの天才はとどまるところを知らないようだ。10点ではなく9点にしたのは、単純に見ていて楽しくないからだ!ノエには、少なくともあと2、3本袖に控えていてほしい。ノエがいなくなるまで、私は彼の映画を見続けるだろう!彼が作るものすべて!
まとめと感想「涙が止まらなくなる」
心臓病に苦しむ夫、認知症の妻の終末までを静かに残酷なまでに淡々と描いている。
2時間、そう2時間もの間、妻エリーの認知症の症状にハラハラさせられ、夫ルイは何もしないでいたこと、本を書くこと以外ポンコツの浮気野郎だったこと、息子も上手に生きれる性格でもなくシングルファザーをやっているさまざまな人間の生き様が描かれ続ける。彼らの背景が徐々に明らかになっていく過程は面白かったし、この二人はどこに到達するのだろうか?一抹の不満とともに彼らの歩みを見届け続け、私たちの心に刻まれ始めたと思ったら、突然のルイの死亡。
人間はこんな唐突に死んでしまうのだ。
エリーと同じ気分だった。
え?
ええ?
死んだ?
嘘だよな?
と。
「人は死ぬんだ」
監督が我々に伝えたがっているようだった。
そしてこの映画で最も奇妙で素晴らしい手法だったスプリットスクリーンがここでやっと活かされる。2時間もの間ずっと二画面だったのが、ルイの死と同時に片方が暗転してしまうのだ。徐々に二画面に慣れていた私たちの心を見事に抉る演出、拍手と涙が同時に出てしまった。
さらに追い打ちをかけるシーンがある。
ルイが亡くなった初めての夜、エリーがルイを家中探し回った後、外に出る準備をして、外に出る。
そして、
”あなた?”
”どこにいるの?”
と呟くシーン。
・・・。
・・・・っ。
だめだ。
あれは辛い。涙が止まらなくなって溢れ続けた。
忘れるなよ!
忘れたくないんだ!
そうだ!あなたの夫だ!
いないのはあなたの夫だ!
惚けた彼女の表情と動作から全てが溢れて、涙が、感情が弾けてしまった。
そして淡々とステファンがキキと一緒に葬儀を行い、彼らの荷物はすべて売ったか捨てられたであろうもぬけのからとなった一室が映し出された物語は終了する。
ギャスパー・ノエの映画だ。
間違いない。
愛も変わらず我々の隠していた見せたくない本性を暴いて素手でかき乱すような映画だった。
だが、意外と心地良い。
エンター・ザ・ボイドやクライマックスのような見終わった後にぐったりしてしまうようなものではなく、アホなことを言うが神聖な気持ちになった気がする。
人は死ぬ。
だが、それがどうした。
あなたはどう生きるのかは自由だ。と。
そんな晴れやかな気持ちになった。
あなたはどうだろうか。
そういえばギャスパー・ノエの2023年最新作はTravis Scottのミュージックビデオである↓
2024年アメリカ公開映画
ネタバレ↓