「読むのに体力がいる」「この漫画は魂が疲弊する」罪から逃げる女二人の極限の逃避行を描くNetflixオリジナル映画「彼女」の原作漫画である中村珍による「羣青(ぐんじょう)」の魅力を紹介。この映画で魂が震えた人は是非とこの漫画で心臓を鷲掴みにされるような究極の漫画体験をして欲しいと思っています。
先に言っておきますが、
この作品は
「凄い」です。
中村珍最新作:実際にリアル私生活で7人の彼女がいる中村珍の赤裸々なドキュメント漫画のレビューや、中村珍さんの今まで出版した漫画やエッセイ本などの紹介もしています。(こちらからどうぞ)
(「ドロヘドロ」「フリージア」「群青」「海獣の子」など数多くの名作漫画を生み出した伝説の漫画雑誌「IKKI(イッキ)」の伝説の連載作品はこちらで紹介(長文注意))
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もくじ
Netflix「彼女」の原作「群青」の魅力とは
「群青」は14年前の2007年からモーニング2で連載開始→月刊IKKIに移籍。約4年半の間に連載され中村珍のデビュー作だが当時21才という若さでこの魂を抉るような作品を描いている。漫画家中村珍の魅力はこちらで紹介。(中村珍(キヨ)の魅力と新作「レズと7人の彼女たちの感想と」を紹介)
群青あらすじ:
高校時代から自分のことを慕っていたレズビアンの愛を利用して壮絶なDV夫を”殺させた”メガネの女と”殺した”レズビアンの二人の女がいく先も未来も見えない予測不能な逃避行をもがき苦しみながら続ける物語。
愛憎・喜と悲・純と辱・生と死。
そのさきにあるのは。
読者の”魂を剥き出しにする”
古本屋で生まれ育った私は尋常じゃない量の漫画を読んだ自信があるし現在も漫画の蒐集家でもある。
が、この本は読み終わった後に捨てたことがある。
当時学生だった私にとっては衝撃が強すぎたからだ。当時お金もない学生だったのに売ったのではく捨てた程の衝撃。
そして大人になって
もう一度”挑んだ”
今度は泣いた。
40代の大の大人が。
わんわん泣いた。
理由は言語化したことがないが、多分逃避行を続ける二人のラストに至るまでに二人で交わされた「剥き出しの感情」全てに当てられたんだと思う。
嬉しいとか悲しいとかシンプルなものでは絶対にない。もっと複雑だった。
苦しい。
悲しい。
辛い。
幸せ。
痛い。
涙が。
逃げたい。
悔しい。
嬉しい。
笑顔。
そして二人の。
最後の笑顔・・・。
その瞬間。
感情が一気に溢れ
慟哭を自分の意思で
止めることができなかった。
子供の時のように感情の赴くままに訳もわからず涙が止まらない状態は快感だったが、その裏側では潜在意識に働きかけるような恐怖も感じていた。あまりに無防備な状態にさせられてしまったのは初めてだったからだ。
大人になってから様々なしがらみやルールや常識を学び学ばされて叩き叩かれて「大人は、男は、こうあるべき」と言われるがまま成長せざるをえなかった未熟な私が顔を覗かせる。
嫁にすら言ったことのない終わらない永遠に恐怖し続けていた幼少期を思い出してしまったのだ。子供の頃父から暴力を受けまくっていた時期に何度も見た階段の2階から何度も何度も顔面から落ちては浮かび、落ちては浮かぶを繰り返す終わらない夢のことだ。
なぜ幼少期の記憶が呼び戻されたのか?なぜ潜在意識下に隠していた事を思い出させたのか確実なことは不明だが間違いなく「群青」を読んだことで魂の琴線に触れて”魂が無垢”の状態にされてしまった。
だからまずは魅力として言っておきたいことがある。
群青の壮絶な物語を読むと自分の魂までも剥き出しになるから読むときは注意をすべきだ。これから予定があるなら読むべきではない。これから心霊スポットにいくのなら絶対に読んではいけない。傷つき剥き出しになった魂の状態で行動は危険だ。読むなら金曜日の夜。もしくは休日前夜だ。
もう一つ思い出した。
群青の単行本に書かれていた宣伝文句だ。
中村珍さんの”魂”を
削って描いているようだ
と当時発売された単行本の帯に誰かの紹介文でこう書かれていたのを良く覚えている。
しまった。
この漫画の何が凄いのかを書けていない。
次は漫画のキャラクター描写の凄さを紹介したい。
不確かな人間性をリアルに描く
この物語は人を殺した女と人を殺させた女のたった数日間の逃避行を描いた物語だ。たったそれだけなのに。何故ここまで人を惹きつけるのか?
ここでも申し訳ない。
一言では言い表せることが私にはできない。
なんとか絞り出すと。
群青では
人間の裏側にある闇と
不確かな人間性を
リアルに描いている。
人間は白黒では語れないことをリアルに漫画に落とし込んでいるのが魅力的だ。
この物語の主役。
黒髪の「メガネ」と
レズビアンの「レズ」。
人殺しをさせた女メガネと人殺しした女レズの二人が逃避行を繰り広げるが、冒頭からすでに愛憎入り混じる本音と建前から始まる。
『“大好きだ”と言ってやったら、クソみたいな私の夫を殺してくれた。レズのバカ女。』(メガネ)
正直利用できるものはなんでも利用してあわよくばさっさと警察に捕まってもらって第二の人生を生きたいメガネの本音。
「あーしの人生なんかさ、あーたがニコッとすりゃボロボロになるんだよ。」(レズ)
メガネの本音を分かっても。一晩セ○クスの相手をすることで殺しを受けたレズの馬鹿女の愛。
メガネはさっさとレズを売り渡せばいい。
でもメガネはしない。
何度も警察に通報する機会があった。
でもしない。
何度もレズを置いて逃げることができた。
でもやらない。
恩?なぜ?
「人を殺しても
あなたといたい」
そう願うレズの愛に触れてしまった?
なぜ二人は逃避行を繰り広げるのか?
彼女たちの複雑な感情を
安易に答えることができない。
この不確かさ。
これを描いているからこそ読む人間の心を深く抉るのだろう。
まるで自分の隠している部分を見透かされているような気持ちになるのかもしれない。絶対に見せることができない隠さなければならない部分を代弁してくれてしまっていると感じるのだろうか。
メガネは幼少期から親からも暴力を受け、大人になってからも夫から壮絶な暴力を受けている。
一方レズは容姿端麗裕福な家庭で愛されて育ってきた。高校時代からレズの周囲には友人が、家族が、兄が、3人の甥っ子が、レズに片想いしていた同級生の女に、レズの元彼女など人に溢れている。
メガネには親しい家族や友達はいない。
常に一人だった。
だから努力して玉の輿を狙ったのに壮絶なDV夫に捕まってしまった間抜けなメガネ。ちくしょうめ。世の中なんてそう甘くないんじゃないか。
だがレズは今自分のために
高校時代からずっと引きずっている
片想いのために私のために
人を殺している。
こんな人はいなかった。
こんな友達はいなかった。
こんなバカは見たことがない。
こんな友達は見たことがない。
こんな。
こんな自分”なんか”から離れず
愛していると言ってくれた人は
レズしかいない。
(ああちくしょう。語彙力の無さめ。)
メガネとレズが何故警察に行かずに逃避行を繰り広げるのか?レズはセックスがしたいだけではなく、メガネも単純に寝てやるために一時的に逃げているわけではない。ここでは描き切れないほどの複雑な感情を描かれている。
だからメガネはレズに「愛されていると知っている」からこそ言葉や裏腹な態度をとってレズを傷つける、が自分も傷ついていく。
レズもメガネには「私しかいないと知っている」と理解してるから言うことを聞いて殺人をすることでメガネの人生に無理矢理入り込む歪な純愛が見え隠れする。
二人は互いに傷つけ合いながら逃避行を続ける。
何もない逃避行を続けながら
傷つけあい。
ただただ
前に。
最悪のゴールが待っているのを知っていても。
逃げたい。
捕まりたい。
楽になりたい。
罰を受けたい。
愛したい。
愛されたい。
憎い。
償いたい。
そして、
だけど。
「好きだよ」
「この言葉」が言えたらどんなに楽で喜び慈しみあい二人が楽になることか。でもこの物語でメガネの口からはこの言葉は出てこない。絶対に言わない。
全ての本音とたてまえを隠して逃避行を続けるしかない。
この二人の揺れる不確かな感情。
これがリアルな人間そのものだと感じる。
この不正確さが人間なのだ。
多分。
多分だが
この二人は
本気で逃げようとか思っていないんじゃないかな。
ラストはあなたの環境によって変わる
「幸せな逃避行だった」
「最悪な逃避行だった」
色々な意見があると思う。
が、私は「幸せな未来」を想像した。
バカみたいに傷つけあって、たった一言愛してるってごめんねってありがとうって素直に言えれば済んだ逃避行だったが、最後の夜。(本当に二人にとっての最後の夜かは不明)言いたいことをやっと言える間になる。
しまった。色々書いたけどこれは全部ネタバレになるから書いちゃダメだ。ってことで結構消しました。
助けて。
さみしい。
この変で涙腺がヤバくなったことだけは。
まとめ:傑作漫画「群青」を読む準備を
ありえないぐらい複雑な感情と思考と魂がぶつかり合って混ざって中村珍さんの手から生み出されたこの作品は本当に21歳の時に描いたのか?ってぐらい特濃。40才にしてわんわん泣くとは思わなかった(実際中村珍さんの壮絶エピソードを聞くとなぜこんな物語が描けたのか納得はする)
幸せになって欲しい。
そう思った。
大人になってから見直すとまた違った感想になるとは思わなかった。
群青はやっとKindle版出ました。
中村珍の漫画最新作は「レズと7人の彼女たち」です。
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